ニュース・日記

ニュース・日記

風通信108

2017/07/15(Sat)
風通信 |
先月の『三文オペラ』は、よく知っている作品でもあるし、
だいいち長い作品なので、パスしたんだけど、
今月は観に行った。
NTLの『The Deep Blue Sea』(深く青い海)です。
今回の観客は五人。ゆったり観ましたね。

演劇評論家じゃないので論評は避けるけど、
愉しめる作品だった。いつも思うんだけど、
なんかね、演劇の文化が違うなって。

(以下の引用は、暗闇の中でメモったので、正確じゃない)
「人っていつも善い人よりも、素敵な人を好むのね」
で、オーディエンスは爆笑。僕も笑ってしまった。
作品はイプセンを想起させるような内容で、
かなり渋いのですが、こういうクスグリがある。
そうね、ときとして、
真実よりも優しさが人を慰めるものだし。

「理屈では説明しきれない、哀しみがあるわ」
うん、言葉はいつも不十分。だけど、
言葉に出来ないものを無理に言葉にする必要はない。
もしろ言葉に出来ないものを
抱えて生きることの方が重要だったりする。

ヒロインに向かって、
「希望がないということは
希望に裏切られることもないということです」
と言った医者はそれは言葉の綾だとなじられ、
「希望を通り越した向こう側で生きるんです」
と畳みかけると、
「希望の向こう側には何があるんです?」と尋ねられる。
その答えが「Go on living!」
(・・・ちょっとこの引用は言葉足らずですが)

主演のヘレン・マックローリーは素晴らしい演技。
残念ながら、
下世話な言い方だけど、あの顔、苦手なんだなぁ。

原作にはないと思うけれど、
演出のキャリー・クラックネルの創った
最後のシーンは秀逸です。
精神的にも肉体的(むしろこちらの方が重要)
にも愛する男に去られたヒロインが、
嗚咽しながら、ガス台に火を付け、卵を焼く。
嗚咽しながら、トーストにバターを塗る。
トーストの上に卵焼きを載せる。
そして、一口囓って、カットアウト。
巧い。

こういう芝居を観ると、
演出家のはしくれとして、舞台を創りたくなります。
このページのTOPへ
Copyright (C) anton-crew All Right Reserved.
このページの先頭へ戻る