ニュース・日記

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風通信121

2017/09/17(Sun)
風通信 |
そんなふうには見えないのだけれど、
僕の友人の山本は車が好きなようだ。
それも、日本車には手を出さない。
いや、僕の知っているかぎり、一度だけ、
NISSANのブルーバードに乗っていた事がある。
でも、確か半年で手放したと記憶している。
面白くないのだそうだ。
面白い車という発想は、つまり、運転していて、
楽しいか楽しくないかということなんだろうか。
ともあれ、半年で売り飛ばした、それからの半年間、
彼の奥さんは何かにつけて経済のことをいい、
いい加減うんざりしたそうだ。
でも、それはそうですよね、
僕だって奥さんの気持ちは分かる。

アメリカ車やイギリス車、
それからドイツ車と渡り歩いた彼が、
最近手に入れたのがHONDAの“NBOX/”。
軽自動車である。
この車の特徴は運転席の下方に大きなウーハーがあり、
その他に四つのミッドレンジのスピーカー。
さらに四つのトゥィーターが標準装備してあるところだ。
車内がまるでコンサートホールか、スタジオみたいな感じです。
そこで、モーツァルトの『魔笛』、夜の女王のアリアなんかを聴くと、
人の声がまさに楽器に聞こえてくるそうだ。よく分からない。
もっとも、チェット・アトキンスの
ウフフなギター演奏を聴くよりはいいかもしれない。
(念のため、別なシチュエーションならいいんです、あのギターも)
もちろん、不十分ながらも防音装置は付いている。
そりゃそうだよね、じゃなければ、
交差点でアイドリングストップした時に、
他者の存在に考慮しないどこかのお兄さんと間違われる。

軽自動とはいってもターボチャージャー付きなので、
走りそのものには普通車に遜色がないそうだ。
日本の技術者の実力は世界に誇っていいと言うのが持論。
ただ、軽自動車の致命的な欠点は、
タイヤのグリップ力が弱い上に、軽量なので、
隣の車線をダンプカーが走っている時に、
大きな波に揺れる艀のような感覚に囚われるらしい。
その他に、いろいろカスタマイズして、
購入時にはコンパクトカーよりも高額になったらしい。
バカである。
そのくせ、それほど車にこだわりはないというのだ。
トム・ハーディの主演した『レジェンド』という映画の中で、
アメリカン・マフィアのドンが
「信頼してくれという人間は、まず信用しちゃいけない」
という台詞を言うシーンがあるが、あれと同じです。

山本から聞いた話で今でも忘れないのは、
イギリスのミニクーパーに載っていた時のこと。
それはよく晴れた美しい秋の土曜日の午後のことです。
郊外の公園の脇道を走っていた時、エンジン部分から、
カチャカチャと妙な音が聞こえたそうだ。
ん? と思った瞬間、車からストンと力が抜けたらしい。
力が抜けた? うまく実感は出来ないんだけれど、
まあ、彼がそう言うのだから、そうなんだろう。
何気なく道路の左側にハンドルを切っていたので
そのまま惰性で路側帯に寄せて止まったそうだ。
「そしたらな、あたりは、急にしーんとするんだよ。
風のうなりみたいなもんがかすかに感じられて、
よく晴れた日でさ、雲ひとつなく、
公園から子供たちの黄色い声が聞こえてくる。
すべてが妙に非現実的で、
本当はあれこれしなくちゃいけないんだけど、
なんか、時間が止まったような、いい気持ちになったんだ」
と話してくれたことがある。
彼の話の中では唯一、好きな話である。
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