ニュース・日記

ニュース・日記

風通信144

2018/01/07(Sun)
風通信 |
帰福した日は穏やかに晴れ渡った陽射しだったけれど、
このところ、十九世紀のイギリス絵画みたいなお天気。
低く垂れ込めた厚い雲が空を覆っている。雪はありません。
むかしは(というとなんだか年寄りじみていますが)、
福岡でも、雪が積もった日が多かったように思う。
寒さは厳しくないので、その多くは淡雪か綿雪みたいだった。
三月に降る忘れ雪というのもありましたね。

雪といえば、亡くなった吉野 弘さんに
『夕焼け』ほど有名ではではないけれど
『雪の日に』という作品がある。
まあ、生きることの哀しみを表現した作品ですね。
合唱曲もあるみたいだけど、今日は原詩の方。

――誠実でありたい。
そんなねがいを
どこから手に入れた。

それは すでに
欺くことでしかないのに。

という冒頭二連の後に、
第四連で、

雪は 一度 世界を包んでしまうと
そのあと 限りなく降り続けねばならない。
純白をあとからあとからかさねてゆかないと
雪のよごれをかくすことが出来ないのだ。 

とその理由が示される訳だが、
若い頃は、そこらあたりで止まっていた解釈も、
年齢を重ねるとおのずから気付くこともある。
言うまでもなく、
「雪」は言うまでもなく「誠実」の読み替えです。


雪の上に雪が
その上から雪が
たとえようのない重さで
ひたひたと かさねられてゆく。
かさなってゆく。

という最終連です。
まず、「ひたひた」というオノマトペね。
物事が静かに休みなく迫ってくる感覚でしょう。
「かさねられてゆく」が
「かさねる」という他動詞に受け身の助動詞が用いられる。
いかんともしがたい運命みたいです。そして、さらに、
最終行で「かさなる」という自動詞が使用される。
ここに表現された「人とはそういうものだ」
という諦念こそ、読むべきところかなと思うのですね。

ヤレヤレといいながら、
今日も日が暮れてゆく。
このページのTOPへ
Copyright (C) anton-crew All Right Reserved.
このページの先頭へ戻る