ニュース・日記

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風通信183

2019/03/27(Wed)
風通信 |
旧聞に属するかもしれないけれど、
橋本治が亡くなった。
若い頃から馴染んできた人、
僕の拙い本棚の一角を占める表現者たちが、
次々に鬼籍に入っていく。
致し方ないこととは言え、である。
誰もが通る道で、僕にしたって
遠からず歩いて行くのだろうけど。

橋本治が強烈な印象として記憶されたのは、
やっぱり1968年の五月祭のポスターだった。
“泣いてくれるな、おっかさん
背中の銀杏が泣いてるぜ
男、東大どこへゆく”である。
職業柄、「桃尻語訳枕草子」も折に触れて開いた。
当時としては(今もかもしれないけれど)、
画期的なアプローチだと思ったなぁ。
清少納言は、
今ならフォロアーをたくさん持ってるブロガー
という位置づけができるだろうか。

彼の小林秀雄賞作品『三島由紀夫とは何だったのか』も、
その切り口の鮮やかさを考えたとき、
結局、頭がいい人なんだなぁ思ったものだった。
内田樹によると、橋本は物理的にも
人間業とは思えない速度で、執筆をしていたらしい。
たとえば、一日原稿を何百枚も書いたとか。すごいですね。
もっとも、今後もそういう人は出てくるはずだから、
唯一無二というわけではないだろう。

三島と言えば、思想云々は別として、
若い頃、三島由紀夫もよく読んだ。
代表作はほとんど読んでいると思う。
あの文体は憧れだったなぁ。
彼が死んだとき、吉本隆明が優れた悼辞を
書き残している。
長いので引用は控えるが、次の一節だけは。
「知行が一致するのは動物だけだ。
 人間も動物だが、知行の不可避的な矛盾から、
 はじめて人間的意識は発生した。そこで
 人間は動物でありながら人間と呼ばれるものになった。
 (中略)つまらぬ哲学はつまらぬ行動を帰結する。
 なにが陽明学だ。なにが理論と実践の弁証法的統一だ。
 こういう哲学にふりまわされるものが、
 権力を獲得したとき、なにをするかは、
 世界史的に証明済みである」

そういえば、上のように書いた吉本隆明も亡くなった。
彼が個人的に出版していた「試行」という雑誌も、
いつの間にかどこかに行ってしまった。
ああいう雑誌を、今の若い人は読まないだろうな。
いい時代になったというべきか、よくわからない。

高校時代に丸山真男の『日本の思想』を読んだときのこと。
読む前と読んだ後では
自分がまるで違う人間になったような、
そんな錯覚を覚えた。
後々、それが本当に錯覚だと分かったけれど。
ところでその丸山真男は
吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』の
岩波文庫版の解説を東大の助手時代に書いている。
なんとも目の付けどころがいい。
最近、ベストセラーになりましたね。マンガ版だっけ?
宮崎駿が取り上げたせいだったか・・・。
『君たちはどう生きるか』は、実は、
出版当初、吉野源三郎の名で出版されていない。
有島武郎の名義だったという話を鶴見俊輔の本で知った。
転向後(だから)、仕事もなく
とにかく食べていけなかった吉野の救済策だったようだ。

丸山真男が、生前、吉本隆明を批判的文脈で
語ったことがあるそうだ。わりと有名な話らしい。
東大の学生向けの講演で、
「ファシズムは亜インテリが作り出す。
 皆さんは東大生だから亜インテリではない、云々」
前半は正しい。しかし、まあ、東大生に阿ったんですね。
それを受けて、吉本は次のようなコメントを出したらしい。
「私は本質的な勉強をしているので、
 東大教授のような下品な人間にはならない」
僕はこのコメントがとてもいいと思う。
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