アントン ユモレスカ:劇評
【アントン ユモレスカ:劇評】
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劇団アントンクルーと言えば、海外の現代戯曲の上演に定評がある。
本邦初の作品を上演した功績もあり、見応えのある作品を作ってきた。
その彼らが団名に掲げるアントン・チェーホフを題材にしたオリジナル作品が「アントン・ユモレスカ」である(6月30日、福岡市・ぽんプラザホール)。
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チェーホフが生きていた百余年前のモスクワ芸術座の話と、チェーホフ戯曲を上演する現代の劇団の話が交錯する。一方ではチェーホフ自身が「演出家は私の芝居をわかっていない」と嘆き、他方では劇団員が「チェーホフの芝居はわからない」と試行錯誤する。
なんとこれは「今も昔もチェーホフ戯曲は正しく演じられていない」という大胆な発言をする芝居だった!
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劇中で言う通り、チェーホフの4大戯曲は本人が望むように理解されなかったらしい。
彼は喜劇として書いた。だが、失恋・退屈な人生・思い通りにいかない人生・家の没落など、物語は笑える喜劇からはほど遠い。
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ここではチェーホフの喜劇性を両時代それぞれの芝居の稽古を通して見せようとする。
百年前にどう演じられたかを見せて、理解されなかった彼の意図(=新しさ)を浮き彫りにし、そして現代のセンスに置き換えて面白さを共有しようとする。
面白おかしく描いているが、内容はチェーホフ戯曲の受容のされ方と意義の説明。
つまりはチェーホフ戯曲論を芝居にしたようなものだ。啓蒙的ともいえる。なぜ作品そのものの上演で解釈や意義を示さないのか、もどかしく思った。
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もっとも、真面目な内容とは裏腹に、舞台はギャグやパロディ満載でドタバタと笑いに徹する。
ドタバタ・チェーホフ喜劇を目指すのかと疑うほどだ。
おそらくこれはアントンクルーの決意表明。直球勝負の次作を楽しみに待ちたい。
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朝日新聞・柴山麻妃