ニュース・日記

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風通信172

2019/02/21(Thu)
風通信 |
シェイクスピアの作品は、
喜劇、悲劇、歴史劇、ロマンス劇と
いくつにも分類されるけれど、
なべて風土の匂いがなく、時代の影も薄い。
要するに彼の生きたビクトリア朝を離れることはない。
たとえば、
ローマ時代の『ジュリアス・シーザー』を扱っても、
作品自体からローマの石畳を思い浮かべることはできない。
それは、つまり、どの時代どの場所で人物が生きていても、
普遍性に到達するということなんだろうけど。

と、ここまでが前説で、今日は『マクベス』の話です。
今年のNTLは『マクベス』ではじまったのだ。
昨日観てきました。

前々から『マクベス』だけは、シェイクスピアの作品の中で
少し違った風景を見せてくれるように思っていた。
さまざまの要素が、スコットランドを想起させるということ。
たとえば三人の魔女はヒースの荒野がふさわしいし、
城塞は垂れ込めた雲の下で朽ち果てていく古えの城が似つかわしい。
冷たい石壁の回廊を曲がると、
マクベス夫人が拭っても拭っても血が落ちないと、
蹲りながらほぼ狂気の中で嘆いている・・・。
そんな印象があるんだけど、
今回の舞台は、まあ思った通り無国籍風。
演出のルーファス・ノリスは内戦が続く紛争地帯と設定。
なるほど、内戦ねぇ。美術もそういうセット。
昨年末の『ジュリアス・シーザー』と同じでした。
シェイクスピア劇では、さっき述べた意味でも、
リアルな衣装、リアルな装置に必然性はないと思うけれど、
もうそういう古典的な舞台に戻ることはないんだろうな。

で、作品はどうだったかというとですね、
舞台としてはあまり面白くはなかったのだ、これが。
まず、意図は分かるけれど全体に舞台が暗すぎた。
それに、ダンカンを殺害する場面をバックライトの
影絵で見せたのもいただけない。
その事実を言葉で知らしめて、マクベスの演技≠
見せるべきだったような気がする。
あまりにも有名な台詞である
「消えろ!消えろ! 束の間の灯火! 
 人生は歩きまわる影に過ぎない! 」
を叫ばせず、深い内省の表現としたのは
優れた演出だったかなぁ。
以前、日本人の舞台で、観客に透明の傘を持たせ、
バーナムの森が動くのを見立てた演出を見たことがあるが、
「バーナムの森が動かない限り安泰だ」、及び
「女が生んだものには自分を倒せない」
という予言(言葉)に縛られているマクベス(人間)の姿を
見せることに集中させるという
今回のようなに表現すればいいのだから、
あのくだらなさが分かりましたな。
舞台としては個人的には面白くなかったけれど、
文学作品としては一級品ですね、やっぱり。
基本的なストーリーとしてはなんでもない話なのに。

話は全然別の方向にいくんだけど、
開映は20時からで、
インターミッションを挟んで約170分の芝居だから、
終映はほぼ23時となる。小屋の都合とはいえ、
一日一回の上映時間設定としてはあんまりだろう。
一考に値すると思った次第。
次回は『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』だ。
210分の芝居。
まあ、早く始まるだろうが、考えものです。
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風通信171

2019/02/03(Sun)
風通信 |
今日は節分。
明日からは、春ですなぁ。
だからだろうか、如月というのに、
今日は春の嵐の福岡です。

今年も年末から年始にかけて、京都で過ごしました。
穏やかな天気で、京都の底冷えも感じなかった。
さすがに比叡山の麓辺りでは、
それなりに冬の空気を感じはしたけれどね。
一乗寺に、「恵文社一乗寺店」という本屋があって、
お店そのものが思想のような店内。
そこで長い時間を過ごすことができた。
足利美術館や渋谷の松濤美術館で開催された
吉増剛造展のカタログが買えたのが嬉しい。
そういえば、群馬にある大川美術館では、
松本竣介の長期に渡る回顧展が開催されているけれど、
群馬はなかなか遠いですね、やっぱり。

もう少し、恵文社の話を続けます。

もちろん、
たとえばジュンク堂に平積みになっているような本もある。
でも、その大半は、ああ、こんな本があるんだというような
さまざまな分野のセレクトされた本が並んでいる。
そして、その中のいくつかは、
古い木製のショーケースの奥に収まっているんです。
最近はネットで本を注文することが多いので、
本の持つこの物理的な触感が懐かしい。
曇り空の午後に行ったせいか、店内は暗く、
要所要所にクリプトン球の電灯が付いていて、
落ち着いて本を探すことができるけれど、
老眼が手放せない僕としてはいささかつらいものがあった。でも、
ちょっと幸せな時間だった。

恵文社を出て、とりあえず出町柳まで出て、
それから、ジャズ喫茶のYAMATOYAまで。
大音響が苦手の連れが一緒だったので、
スピーカーの前には座らず、店内の奥に陣取って
恵文社で買った鶴見俊輔の本を読み上げた。
ページをめくる速度が格段に落ちたことを改めて確認。
たぶん、体力が落ちたせいだろうな。
ヤレヤレである。

年末に、旧劇団員に約束した台本の締め切りは
1月いっぱい。
中旬までは本業が忙しかったけれど、追い込みを掛けた。
本日、第1稿、完成。
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