ニュース・日記

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風通信188

2020/05/19(Tue)
風通信 |
コロナも緊急事態宣言がここ福岡県でも解除されて、日常が少しずつ回復されそうです。でも、そんなに簡単には収まらないだろうとも思います。こういうときこそ、芸術の力が必要なんだろうな。And when the broken-hearted people/Living in the world agree/There will be an answerこれは、BeatlesのLet it be≠フ一節ですが、なかなか、沁みるよね、この時期。僕は、一般発売されているのより『NAKED』版がストレートで言葉が伝わってくるような気がします。

10月に考えている芝居は、今までアントンで創ってきた芝居とまったく違う感じにしようと思っています。具体的なことは追々知らせることになるだろうけど、とりあえず「ひとり芝居」なのです。それも3本立て。わけがわかんないよねぇ。。フフ。「ひとり芝居」は経験がないわけじゃないよ。2005年の番外公演で菊澤君と一緒に作ったことがある。アーカイブ:「ジャンコクトーの『声』より」にあの時のことは書いています。僕も若かったし、菊澤君(今では映画監督です)も若かった。年齢的にもあれほどの集中力は僕には残されていないので、半年以上をかけて創りたいと考えていました。だから4月からゆるゆると始めようと思っていた、その稽古を6月から始めます。

冒頭に、「芸術の力」と書いたけれど、芸術の中でも、特に音楽。今回の芝居は劇判が生の音源になります。いつもは、その芝居に合わせて400曲くらい聴きまくるわけですが、今回はそんな苦労はなかったよ。30年来の友人である椎葉裕君がリーダーを務めるアマチュアバンドが入ります。お酒を飲みながら聴くと上手だね、と言われるバンドです。でも、それがいいんだよなぁ、途中で練習して来たはずのリフを外すようなアマチュアの雰囲気を残さなきゃ。

今は、まだ、5月。
「5月の風をゼリーにして、君に贈ろう」という立原道造の詩は話したことがあるけれど、今日は別の「5月の風」を伝えておきます。森光子(晩年、『放浪記』に命を懸けた役者さんです)が、4〜50年くらい前かなぁ・・・、テレビのドラマでいつも語っていた台詞というか、詩、ね。こういう作品です。「貧しいから、あなたにさしあげるものといえば、さわやかな5月の風に薫る緑の若葉と、せいいっぱいあなたを愛する心だけです」

美しい5月が過ぎていきます。
5月の風よ、伝えてよ。
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風通信187

2020/05/14(Thu)
風通信 |
平野啓一郎の書いたものを読む必要があって、とりあえず手近な小説を読んだ。君は小説を読んだかなぁ。小説の話をした記憶がほとんどないので、たぶん読まないんじゃないだろうか。間違ってたらごめん。芥川賞の受賞作品である『日蝕』にしようかと思ったんだけど、重そうだったので評判の『マチネの終わりに』に読むことした。それまで、初期のエッセイ『文明の憂鬱』や、『カッコいいとは何か』を読んでいたんだけどね。ちなみに後者は講談社の現代新書版で500頁に迫ろうかという労作です。

感想? うん、面白かったよ。よく出来た作品だ。大人の恋ね(笑)

人は自分でそのことを認識しているかどうかの違いはあるにせよ、人生においてぎりぎりの場所まで行って、何かを見て戻ってくる経験を持つものだ。ことに恋愛に関して言えば、その人の一生のトーンを決める場合がある。そういう物語です。物語のはじめの方で主人公が「人は変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えている。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものだ。」という台詞(舞台じゃないんだから「言葉」だね)を言う。この言葉が最後まで響いていて、終章にもう一度繰り返されるんだ。僕らの人生では、遠い日の些細な記憶が30年後に重大な意味を帯びるということがありそうな気がする。あるいは生死をかけた恋愛沙汰が淡い夢になることが、これは往々にしてある。記憶とはたぶん、そういうものだし、そうでなくっちゃ僕らは前に進めないよね。経験の重みや鮮やかさの軽重や強弱が更新されるわけだ。

君とともに過ごした過去も更新されていくはずだ。とりあえず、それがいいことなのか、悪いことなのか、いまひとつ分からない。ただ更新されていくという事実がただそこにあるだけだな。そしてもちろん、僕らはその事実に対してじっと耐えることしかできない。そうは言いながら、ただね、藤原定家が晩年にのこした歌が妙に心に滲みる。こういう歌です。

見しはみな夢のただちにまがひつつ昔はとほく人はかへらず

話を戻すと、『マチネの終わりに』は映画になったそうだ。まあ、なるだろうね、やっぱり。映画向きの題材だし。ただ、主演が福山雅治で、ヒロインが石田ゆり子だって知って、腰が砕けそうになった。所詮映画だから、誰でもいいんだけど、福山雅治って、木村拓哉がそうであるように、福山雅治でしょ、いつだって。『そして父になる』?『容疑者Xの献身』?『真夏の方程式』?『SCOOP!』?『るろうに剣心』?『第三の殺人』? 永遠に福山は福山であり続ける。あのアニメ顔はちょっと遠慮したいなぁ。君はどうですか?そして、石田ゆり子? はぁ〜と、語尾が上がってしまいそうだ。国際的な場で活躍し、社会性はいうまでもなく、強い意志と物事を公正に判断出来る高い知性の持ち主という設定のヒロインとしては、ミスキャストじゃないかと思うんだけど。彼女は切れ味が悪い。

しっかりした原作のあるたいていの映画は、原作より劣るものだけれど、それはなぜだろうかとときどき考えることがあるんだ。なぜかなぁ。ありていに言えば想像力の問題に収斂されるんだろうけど、僕はね、寓話性を読み取れるところかなと思っている。魅力的な登場人物や心を揺さぶられる出来事は映画も本も同じ、もちろんストーリーも。でも、本は常に寓話性に満ちているのに対して映画のいくつかはそれがない。あくまで原作のある作品の話だけどさ。

本といえば、アルベール・カミュの『ペスト』を再読しました。ちょっと恥ずかしいかもな。大学生の時、読んだ本です。まあ、成長というのか、あの頃読み飛ばしていたあれこれやが今になって分かる。ヤレヤレ。

次は今年の芝居について、少しだけ書くと思うよ。
元気でいて下さい。
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風通信186

2020/05/06(Wed)
風通信 |
まるで永遠が見えるように空は薄いコバルト色に満ちています。吹き渡る風は木々を揺らしている。僕はヘンリーネックのTシャツのボタンを一つ外した。むかし君に言ったことがあると思うけれど、僕が一番好きな季節、美しい5月です。

今日は5月6日、新型コロナウイルス♀エ染対策として発令された「緊急事態宣言」の終わりの予定日でしたね。いまだに感染患者が激減していない状況から判断して、「宣言」の解除はないだろうとは思っていた。それでも、若干の緩和はあり得るとは思っていたのに、福岡県を含む特定警戒都道府県では、継続となりました。段階的な解除は検討されるようですが、行動の自粛という呼びかけは終わらない。

俳優のトム・ハンクスはオハイオ州の大学での卒業生に送るスピーチで「君たちの人生についてこう語ることになるだろう。コロナ以前はこうだった。巨大なパンデミック以前は、とね。他の世代で語られるように、君たちの人生は永遠にコロナ以前として定義されることになるだろう。」と言ったけれど、今、僕らは歴史に残る「とき」を生きていることになると思います。この伝染病が克服された時に僕が生きていたら、どんなふうにこの状況を語るんだろうな。いつか思い出したように、そう言えばあの頃・・・、と振り返るのだろうか。歳月にはそういう力があるはずだから。

君は感染していませんか?
とても心配しています。

劇団を解散してから、なんどか演劇活動の再開を試みてはいたんだけど、結局のところ、カタチとならず2020年まで来てしまった。このまま終わるのかなと思っていた昨年のことです。若い友人の別府源一郎がひとり芝居の台本を書いたので読んでくれとファイルを送ってくれ、それを読んだ。そして舞台にしたいと思ったんだよ。年が明けた2020年の1月から心当たりの人に声をかけてみたら思いがけず話が進んで、今年の秋に上演できる可能性が出て来た。もちろん、こんな時期だからこの伝染病が終息しなければ、その可能性も失われることになるけどね。そもそもすでに押さ終えた上演会場がなくなるわけだし。あ、会場は福岡県の施設です。でも僕はこの作品をどうしても板に乗せたい。強くそう思っています。ある時期からは、上演することを自分に課すことにした。理由はいつか話すことになるでしょう。幸いなことに、演劇活動から完璧に身を引いていたアントンの旧メンバーも、昨日が今日に続くように打ち合わせに参加してくれました。このことも嬉しかった。

残念ながら、今はまだ稽古が出来る段階じゃない。台本は役者に渡しているので自分なりに稽古をしてくれているはずです、きっと。ネットでの稽古も考えなくちゃいけないかもしれないけれど、身を震わす空気感が必要な芸術には不釣り合いなので、踏み切れないでいます。フライヤーのデザインを進めているけれど、日頃使わないイラストレーターは僕にとってなかなか難物と化してしまっている。ヤレヤレです。

仕事は部分的な在宅勤務が用意されていたけれど、
それもおそらく今日までだろうと思います。
来週から、緩やかに日常が始まるような気がするな。

もう少しだと思う。
感染なきよう願っています。
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